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屋上緑化の基礎知識

灌水

灌水は都市緑化において極めて重要な役割を果たします。 灌水トラブルが即、全面枯死に直結するリスクを常に考えておかねばなりません。 トラブルを想定した事前の準備・計画、保守管理が、美しい緑化を維持させるポイントとなります。 通年にわたり、植栽された植物全体に均一に灌水が行き渡るシステムづくりが大切です。

灌水方法

灌水には大きく分けて「灌水ホースによる灌水」「スプリンクラーによる灌水」「人力によるゴムホースなどでの手撒き散水」の3つの方法があります。

各方法のメリット・デメリット
灌水方法 灌水ホース スプリンクラー 手撒き散水
イニシャルコスト
ランニングコスト ×
手間 ×
撒きムラ ×
屋上緑化向き ×
地上緑化向き
芝生緑化向き

※いずれも蛇口を手で開閉する条件で比較。

灌水制御の種類

灌水を制御する方法として、蛇口を手で開閉する手動式のほかに、タイマーなどでコントロールする自動式があります。現在の都市緑化では、点滴式灌水ホースを使用し、自動タイマーで制御するシステムが最も普及しています。これは定められた水圧を流量内で均一に灌水することができるとともに、灌水の撒き忘れなどのヒューマンエラーを起こす可能性が低いためです。

手動制御

散水栓や立水栓に接続された灌水ホースやスプリンクラーのバルブや蛇口を手で開閉します。人力による作業のためヒューマンエラーによる灌水撒き忘れなどで植物を枯損させてしまうことに注意が必要です。

自動制御

タイマー制御により灌水時間を自動設定しておき、灌水バルブを開閉します。タイマー制御コントローラーには下記3種の電源タイプがあります。

コントローラーの電源タイプ
タイプ コスト 取付手間 メンテナンス 耐久性 タイマー性能
電源式 年間・週間
電池式 × × 週間のみ
ソーラー式 年間・週間

灌水設計のポイント

灌水を植物にむらなく均一に与え、安心して運用するためには、計画段階で確認するポイントがあります。イニシャルコストだけにとらわれず、メンテナンスやリニューアルも想定した設計を行うことで、健全な植生が維持され、結果としてトータルコストを抑えることができます。

計画時

均一に灌水を行うためのポイント
植栽の目的の確認 植栽は屋上緑化なのか、地上緑化なのか、樹木なのか、草本類なのか、これらの情報により最適な灌水方法を決定する。
周辺環境の確認 植栽地は日向なのか日陰なのか、風は強いか弱いかなど、夏季だけでなく冬季の環境もシミュレーションしておく。これらの情報により、灌水に必要な時間を割り出し、材料の能力や制御方法を決定する。
水源位置の確認 植栽地と一次給水位置は適当であるか、植栽地と高低差はないかを確認する。
水源の能力確認 一次給水の口径(20A・25Aなど)、水圧、水量、クロスコネクション対策済みであるかを確認する。
電源設備の確認 電源式自動制御タイマーを使用する場合は、電源の供給が必要となる。
灌水運用時を想定した追加機能の確認 雨天時は灌水使用を取りやめたい、万一のトラブルが即座に可視化できるようにしたいなど、運用時により使いやすくするためのポイントを確認する。

設計時

トラブルを未然に防ぐポイント
システム・土壌・植物の種類 緑化システム、土壌の厚み及び植物の種類に考慮した設計。
灌水ホース 適正で合理的な灌水ホースを選択した設計。屋上緑化の灌水は点滴灌水方式が効果的。予め点滴式灌水ホースを埋設し、全自動か半自動で灌水する。敷設ピッチ、灌水時間の設定により、それぞれの植物の水分要求量に合わせた灌水が可能であり、多くの現場で採用されている。
逆流防止 ホース内の水を逆流させない設計。高架水槽のように水道管本管と分離されている場合は問題がないが、ポンプアップ式の場合、直結させることは「水道法」により禁止されている。対応策として、一度タンクに受水したものをポンプで加圧給水する方法や逆止弁を付ける方法またはエアーバルブを付けて逆流を防止する方法などがある。
灌水の系統 水を好む植物とそうでない植物を分けてデザインし、灌水の系統を分ける。また四季に応じて灌水時間の設定を変える必要もある。
均一な灌水 芝生ではスプリンクラーにするか、灌水ホースの間隔を狭くし、保水排水パネルで水が均一に広がるように設計する。
破損・劣化 埋設タイプのホースは植替え時にホースを切断したり、折れ曲がって先端まで水がいかなかったりする場合があるので注意が必要。また耐久性の高いホースを使用し劣化を防止する。

実際に起こった灌水トラブル

灌水装置によく起こるトラブルは、水道や電気系統 、電磁弁やコントローラー等の機器系統、配管やホースの破損や詰まりなどがあげられます。なかでも点検時に電源を切ったまま、水道元栓を締めたまま、復旧し忘れたり、電磁弁やコントローラーを自動から手動に切り替えたまま作業終了してしまうヒューマンエラーが多くあります。このようなトラブル防止策として、警報装置付自動灌水システムや各種センサーを取り付けるといった方法もあります。

実際に起こったトラブルの内容 対策
灌水不足による枯損。 タイマー制御の灌水装置の設置。
管理者出入り困難な所に手動灌水ホースを設置。 手元調節可のホースへ切り替え。
灌水装置選択ミスによる枯損。
供給配管の水圧不足。
別途、配管設備工事にて対応。
事前に水圧等の確認が必要。
灌水頻度が多く、水道料金が高額になる。 灌水設備・計画の見直し。植栽樹種・土壌の見直し。事前説明による理解。
灌水システムの不良(接続・弁の誤作動)。 灌水装置の作動チェックの徹底。
管理業務時の灌水装置の破損、放置。 修理・修復。
雨天続きにも関わらず、灌水装置が作動。 雨センサーの修理・修復。
または雨センサーを新設。
灌水をしていたのに薄層緑化システムの植物が枯損。 土壌の厚みや土壌の性質、緑化システムに合った灌水時間の設定。
灌水過剰による根腐れ。 タイマー設定の見直し。
灌水装置設置位置不良による枯損。
芝下の灌水間隔の不適正。
補助として人力による灌水。
灌水ホースの間隔が現況に合わず、 水上側端部のみが枯損。 灌水ホースの種類や間隔を変更。
植物により枯損するものとしないものがある。 水を好む植物とそうでない植物を分けてデザインし、灌水の系統を分けるなどの対策が必要。
灌水ホースで芝生灌水したら、芝生の生長がまだらになる。 芝生ではスプリンクラーにするか、ホースの間隔を狭くし、水が均一に広がるように注意する。
ホースが埋設されているのがわからず、 植物植替え時にスコップでホースを切断。 植替作業時の破損部の修理・修復。
場所によってはホースを仮撤去し植替作業を行うなどの対策が必要。
灌水装置の運転管理ミスによる枯死。ジョイントからの漏水。取扱い説明不足(保証期間経過後)。設定悪く、灌水量不足。 マニュアルを渡し、再度説明。
タイマー設定の見直し。
二次側給水配管部の凍結による亀裂からの漏水。
一次側バルブ止めから自動灌水装置までの給水 配管の凍結防止(保温材)処理が不十分。
温度差の激しい地域や高層階・沿岸地域での施工は保温・ラッキングと水抜きバルブの設置が必要。

灌水工事基本施工手順

灌水工事の基本的な施工手順を下図に示します。


灌水計画

灌水の頻度と設定時間は、植栽地の水はけ状況、日当たり、蒸散、植物の状況を把握していないと適切な計画は立てられません。従って、灌水計画を立てるのは、該当植栽地をよく観察している管理担当者が行うべきです。

灌水計画の立て方

  1. 1度に灌水する量を決めます。(標準的な目安として20分~30分)
  2. 灌水する間隔を決めます。
  3. 灌水後の検証をします。(季節の終わりや1年間通じてその都度検証し、次の灌水計画の基礎としてください)

灌水頻度と時間帯の考え方

  1. 夏季は、植物の活動が活発であること・植栽地の乾きが早いことなどから、他の時期よりも灌水回数を多くすることをおすすめします。また、日中の暑い時間帯に灌水を行うと、根や下草等が蒸れてしまうことがあるので早朝や涼しくなる夕方に灌水を行ってください。
  2. 梅雨時期は土壌・植物によっては水腐れに注意が必要です。灌水頻度は特に注意深く調整してください。
  3. 冬季は植物の活動が鈍くなりますので灌水回数は、他の時期よりも少なくすることをおすすめします。 また、状況によって夜間朝方の霜焼け等の心配がありますので、灌水は昼間の暖かい時間帯に行ってください。
季節 灌水日 灌水時間 灌水量(時間)
春季 週3回程度 8:00~ 30分程度
夏季 毎日2回程度 ~6:00 各30分程度
18:00~
秋季 週3回程度 8:00~ 30分程度
冬季 週1回程度 11:00~13:00 30分程度

※この標準例は植物の健全な育成を保証するものではありません。
現地の植栽に即した灌水頻度・時間帯表を作成することをおすすめします。

自動灌水装置における季節ごとの設定変更の一例

現場となる場所の気候や風土、植物、また使用した人工土壌の特性や土壌の厚さに合わせて、季節ごとに設定を変更しておく必要があります。自動灌水といえども、植物の様子やその年の気象状態を反映させたきめ細かな管理・調節を行うことが植物の健全な育成や節水に繋がります。

土壌厚に応じた季節別灌水間隔と水量の目安(1㎡当たりのリットル数)
季節 地域 土壌厚 10㎝ 15㎝ 30㎝ 60㎝
期間 間隔 間隔 間隔 間隔
春季 寒冷地 4月~6月 3日 6ℓ 4日 10ℓ 4日 15ℓ 4日 20ℓ
温暖地 3月~5月
夏季 寒冷地 7月~9月 2日 6ℓ 3日 10ℓ 3日 15ℓ 3日 20ℓ
温暖地 6月~9月
秋季 寒冷地 10月~11月 3日 6ℓ 4日 10ℓ 4日 15ℓ 4日 20ℓ
温暖地 10月~12月
冬季 寒冷地 12月~3月 停止 停止 停止 停止
温暖地 1月~2月 6日 6ℓ 7日 10ℓ 7日 15ℓ 7日 20ℓ

※土壌の有効水分保持量を20%として計算。土壌厚10㎝・15㎝では1/3、30㎝では1/4、60㎝では1/6で計算。
※寒冷地は冬季の最低温度が-3.0℃以下になる地域とした。

雨水排水

屋上ではルーフドレンにより雨水を建築物の外に排出しますが、緑化を行うことで落葉や土壌の堆積などが生じてドレンキャップが詰まりやすくなります。このため水位上昇が、防水立ち上がりを越えやすくなるため、綿密な排水設計が必要です。
[排水勾配]
一般的に屋上には水溜りを避けるため勾配が付けられています。シート防水では約1/50、アスファルト防水では約1/100です。緑化を行う場合、アスファルト防水押えコンクリート工法でも1/100より急な勾配を確保することが望まれます。
[塔屋からの雨水]
塔屋からの雨水は屋上面に放出してしまわずに、横引き配管で屋上のルーフドレンに誘引することが望まれます。
[ルーフドレンの形状]
フタ付ドレン ルーフドレンの形状には縦引き型と横引き型があります。縦型ドレンキャップには山型と皿型がありますが、皿型のルーフドレンでは落葉、土壌などで詰まりやすいため、山型を使用します。横引き型では平面的なL字型でなく、前面に張り出した形のものを使用します。
[屋上緑化では必ずドレンカバーを使用]
屋上緑化内にあるルーフドレンには必ずドレンカバーを設置し、ドレンの点検・清掃ができるようにします。
[雨水の有効利用方法]
「雨水+質の良い土壌」を上手に利用すると、灌水頻度を減らせます。透水性・保水性が優れた土壌厚が適切な土壌であれば、根張りが足りない植栽直後の灌水は必要ですが、正しい管理を1~2年行うとそれ以降の灌水は非常に軽減されます。長い目で見ると雨水利用型の植栽方法ともいえます。

 

クロスコネクション対策

植栽用の給水はクロスコネクション対策済の水源であることが必須です。
クロスコネクションとは、各種の給水装置と水道管を直結することをいい、水道水の汚染防止のため、「水道法」により禁止されています。クロスコネクション対策とは、逆止弁を設置することや、給水吐水口と利用水面との間に規定以上の空間を設けるなどの方法です。

クロスコネクション対策済の水源が供給されている場合

クロスコネクション対策がされていない水源が供給されている場合